一ヶ月以上ぶり、超久しぶりの『有機化学反応まとめ』シリーズです。
更新する時間がなくてスルーして以来、スッカリ忘れておりました汗
当ブログで展開しているシリーズの中でイチバン需要がないかも知れませんが汗、有機化学に関する知識をまとめておきたいので、勝手ながら本日はこの記事を書くことにします。
ちなみに、現在展開しているシリーズは、
『いきものウォッチング!』
『面白っ!クスっと?ヘンなモノ大集合!』
『牛フタコレクション』
『ゲーム購入記録』
『交通の番人たち』
『ノスタル・レトロ』
『ハマったゲームたち』
『ピクミンについて語る』
『ふくきろく』
『有機化学反応まとめ』
の10シリーズとなっております。
しかし、必ずしも毎旬1回ずつ更新するわけではなく、ネタが無かったり更新する時間が無かったりした場合は、シリーズを一旦休止するもしくは後回しにする、という風に展開していきます。
実は既にそうしてはいるのですが、ここで正式にお伝えしておきますネ。
前々回は、置換反応・付加反応・脱離反応などといった有機化学における主要な反応のうち、置換反応、なかでも求核置換反応ついてクローズアップした。
そして前回は、求核置換反応を反応機構別にさらに細かく分けた、SN1反応/SN2反応/SNi反応の3種のうちのSN1反応を扱った。
No.003 SN2反応
★概要★
求核置換反応の一種。
炭素骨格と脱離基からなる基質が求核試薬によって攻撃され、脱離基と求核試薬が置き換わるという求核置換反応において、SN2反応では基質と脱離基間の結合の開裂と、基質と求核試薬間の結合の形成が同時には起こる。
よって、二分子が一つの段階で同時に反応に関与するのみであるため、二分子(2 molecule)求核(Nucleophilic)置換(Substitution)反応の頭文字を取ってSN2反応という名前が付けられたのである。
求核置換反応においては、このSN2反応が起こる場合がほとんどであり、有機化学を代表する反応だ。
★反応機構★
求核試薬(アニオン)が基質の炭素骨格を攻撃することによって脱離基間の結合が開裂し、結合を作っている2つの電子が脱離基へと移動する。それと同時に基質と求核試薬の間に結合ができ、新たな物質が合成される。
電子が移動した脱離基はアニオンの状態で単独で存在する。
概要でも説明した通り、この反応では、脱離基の脱離と求核試薬との結合形成同時に起こっている。
前回紹介したSN1反応は、脱離基の脱離が起こってから結合の形成が起こるという点で違うということを留意しておくこと。
SN1反応が起きるときは、結合が開裂する反応がゆっくり進む律速段階になっているときであるが、結合の開裂が遅く進まないときは開裂と結合形成が同時に起こるため、その場合にSN2反応が起こるのだ。
また、SN2反応では立体化学も考慮する必要がある。
それは、脱離と結合が同時に起こるために、求核試薬は脱離基が結合している側から近付くことはできないことによるものである。もし同じ側から近付いてしまうと、脱離基が脱離する際に求核試薬が邪魔になってしまい、脱離する物も脱離できなくなってしまうのだ。
そのため、この反応が起こるときは求核試薬は脱離基とは反対側から近付いていくことになる。一定距離まで近づくと、基質-脱離基間の結合が消失し始め、と同時に基質-求核試薬間の結合が形成し始める遷移状態に移行する。
そして更に求核試薬が近付くと、脱離基は基質から押し出されるような形で離れていき、基質-脱離期間の結合は完全に開裂。求核試薬と基質との間に新たな結合が完全に形成され、別の物質に変化する。
…これが、SN2反応の詳細な反応機構である。
上述したように求核試薬が脱離基を押し出す際には、基質の立体化学に変化が生じる。
この現象はWalden反転と呼ばれているが、Walden反転については次回解説していくことにする。
★反応の特性★
これは有機化学反応全般に言えることだが、反応の進みやすさには様々な要因が関わっている。
基質の性能、試薬の性能、溶媒との相性、脱離が生じる反応のときは脱離基の性能…といったものがあり、SN2反応においても例外ではない。
[基質]
先述したように、SN2反応は脱離基の反対側から求核試薬が近付かないことには起こらない反応であるため、求核試薬が接近しやすい形状の基質が好ましい。
すなわち、求核試薬が接近できないようなかさ高い置換基が結合しているような基質ではSN2反応は非常に起こりにくくなってしまうのである。
したがって、最も単純な基質がメチル基となるため、優れた基質の順序の例は以下に示す通りになる。
メチル > 第一級 > 第二級 > ネオペンチル > 第三級
いかがだろう。
この順序は、SN1反応の基質の反応性の順序とは真逆になっていることに気付いただろうか。
反応の仕組みが少し変わるだけで、反応しやすい物質が真逆になってしまうとは、有機化学とは大変面白い学問だということがこのことからもお分かりいただけるだろう。
[脱離基]
脱離基が脱離する際は負電荷を帯びているため、その負電荷を帯びた状態が安定になるような、すなわち電子を安定に保持することが出来るような脱離基が性能の良い脱離基と言える。
電子が安定に保持されるには弱塩基性である方がよいため、脱離した後に弱塩基となる基(=強酸の共役塩基)が優れている。
TsO- > I- > Br- > Cl- > F- > OH-, NH2-, OR-
代表的なアニオンの塩基性の弱さはこの順になっているため、トシラートイオンが非常に優れた脱離基、ヒドロキシドイオンやアミドイオン、アルコキシドが劣った脱離基ということになる。
ちなみにこの順序はSN1反応のそれと全く同じものである。SN1反応とSN2反応は真逆の反応だからと言って、すべての条件が真逆になるとは限らないのである。
[求核試薬]
求核試薬について、液性以外に優れた試薬の条件がなかったSN1反応と異なり、SN2反応においては求核試薬の求核性が重要になってくる。
SN2反応においては、求核試薬は求核性が高いものであるほど優れた反応性を誇る。
傾向としては、荷電していない求核試薬と負電荷を帯びている求核試薬では、電子がより豊富な方が優れているために後者の方がより優れた求核試薬ということになる。
また、原子半径が大きい原子ほど最外殻電子に対する原子核の引力が弱まるため、反応相手の基質に容易に電子が引き付けられやすくなる。それゆえに、原子半径は小さいものよりも大きいものの方がよいのである。
したがって、求核試薬の順序は以下の通りになる。
HS- > CN- > I- > CH3O- > OH- > Cl- > NH3 > CH3CO2- > H2O
この順序においては、硫化水素イオンが最も優れた求核試薬ということになり、シアン化物イオン、ヨウ化物イオンと続き、最も反応性が低い求核試薬は水で、次いで酢酸イオンといった具合である。
[溶媒]
SN1反応は中間体としてカルボカチオンを生じ、基質から脱離してきたアニオンも生じる反応であるため、溶媒和を起こしやすい極性溶媒の方が優れており、なかでも最も優れているのがプロトン性の極性溶媒だったが、ことSN2反応においては、溶媒和を起こしにくい非プロトン性の溶媒が好まれる。
プロトン性溶媒を使ってしまうと、求核試薬に絡んで溶媒和を起こしてしまい、基質と反応しようとせっかく反応性を高めてくれている求核試薬を安定な状態にもっていってしまうため、反応性が大幅に落ちてしまうのである。
したがって、非プロトン性の極性溶媒を使うことが推奨される。
例えば、プロトン性極性溶媒であるメタノールを非プロトン性極性溶媒であるHMPA(ヘキサメチルリン酸トリアミド)に変更すれば、なんと20万倍も反応速度が上昇するのである。
最後に、溶媒の順序を示しておく。
HMPA > CH3CN > DMF > DMSO > H2O > CH3OH
★関連語句★
求核置換反応、求電子置換反応、脱離反応、SN1反応、SNi反応、Walden反転
★参考文献★
1) 日本薬学会 編、知っておきたい有機反応100 第2版、東京化学同人、2019、pp.28,29
2) John McMurry 著, 伊東椒, 児玉三明 他 3名 訳、マクマリー有機化学(上) 第9版、東京化学同人、2017、pp.353-363